雨にも負けず、夏の放射能にも負けず。

わたくし、ブログでびゅーいたします。

筆無精の極致の音楽屋でございます。
こんごとも御贔屓に!

さて、光子降り注ぐ今日この頃皆様いかがお過ごしでしょうか?

曇りがちな天気なのに腕や首など紫外線アレルギーが痒いの痒くないの。
でもわたくし、アレルギー検査では数値2。たったの2。

11年周期の太陽活動の10年目。上がってます。燃えてます。
そして、この異常な太陽の日没点。

わたくし方位磁石で暦と照らし合わせました。
結果、北に約10度ずれてました。
同様の疑問を抱く人々の間ではこの角度は一致しています。

しかし気象庁はじめ天文台は全く問題視していません。

何故か?

シュレーディンガー博士
が唱えたように物体は観測者の意図に合わせて
具現化するんです。
弘法大師云う処の『色即是空空即是色』。

用は疑問を抱いて観測しないと、太陽は暦通りなのだ。もしくは、わたしの乱視のせいで10度
もずれたと。。。。

そんなことを考えながら最近過ごしていたのですが、まあはじめなので、ややこしい話しは今後に続きます。

今日は5年ほど前に女房と一緒に作ったSF小説をお届けしましょう。
ちなみにその頃の女房はえすぱーではありませんでした。

そうそれと。わたくしつい最近放射能ヒーリング音楽作ったんです。無料で配信してます。
なんで放射能を避けられるかなど能書きは、次回以降で発表してゆきます。
↓のリンク先の『始めからはじめよう』という曲です。
ファイル置場の都合で、金額が書いてありますけど、サンプルをDLしてください。(同音質です)
あと、DLしたファイル名の最後に拡張子の.AIFFを付足してお聴きください。


始めからはじめよう(it’s start)/Passport to Heaven

                   『冷蔵庫の穴』

 先日テレビを見ていたらDr.コパさんが出ていた。お馴染みの風水ネタを紹介していたんだけど、そのネタの中で、冷蔵庫の扉にシールや紙を貼ると健康運が下がる、と。まぁ冷蔵庫限定ではなく玄関等、扉から良い気が入ってくるそうで、ドアに何か貼るのは運気を下げるらしいんだな。
 ウチの冷蔵庫といえばシール(バンドがライブやる時にもらうバックステージパス)やプリクラをベタベタ貼っている。
 そのせいか!!去年の暮れから風邪を引きっぱなしだ。
 なので兎に角、シールを剥がす事に!

 まずはプリクラ、これは磁石で留めてるだけだから簡単。でも数がすごい、1枚400円としてざっと16,000円分。ちなみにそんな大きな冷蔵庫じゃなく、高さ180センチ程の光沢のあるグレーの冷蔵庫だ。
 問題はバックステージパス。ほとんど布製のシールで、剥がすのはラクそう、ではなかった。
古いシールは10年物、のり部分が冷蔵庫にベッタリで、剥がす度、見事に布だけが剥げてくる。剥がし方を考え考え、向きや力加減を微調整して、あたしの親指はプルプルして反ったまま固まった。神経が麻痺しているのだ。
 3時間後ドアに残ったのりは、全面/5枚、半分/8枚、3分の1/3枚、の計10枚分。
 疲れた。ひどく疲れた。今日はここまでにしておこう。
 冷えたキッチンにこのまま立っていると風邪を悪化させかねない。尚更、明日はライブのリハーサルだ。

 目覚めは悪くなかった。コーヒーとトーストというありきたりな朝食を摂り、バスに乗ってスタジオへ向う。バスの中ではi podでビートルズのアビーロードを聴いていた。良いアルバムだ。ひとつひとつの音が心の柔らかなヒダの部分を突き刺していき、思わず涙が零れそうになる。そして頭がボーッとしている。
 スタジオへ着くとメンバーは既にセッティングを済ませていた。あたしは急いで曲順を考え、歌詞ノートを乱雑に足元へ並べる。
 いつも通りリハーサルは進んで行く、声の調子も良いし、難無くメニューは決まって行く、がいつもと何かが違う。空気の流れというか、あたしの中でまるで時間が逆戻りしているかの様な感覚が生まれ、テンポ140の曲がまるでバラッドを歌っている気分に苛まれる。
 あたしのとある曲の一部分に「無邪気な鳥達の群れに〜」という歌詞があるのだが、この部分を歌う度、のり憑かれた様に、いや、とり憑かれた様に、「とり」が「のり」になってしまう。何度歌っても「無邪気なのり達の群れに〜」と意識とは裏腹に舌が動いてしまう。奇妙だ。あたし以外のメンバーは気付いていない。
 それ以上の変化もなくリハは終了し、直ぐ解散。少し淋しい、のはあたしだけ。メンバーはいつも通りそれぞれ街へ散って行った。あたしも通い慣れた家路へ足を運ぶ。

 アパートへ戻り、スーパーで買った竹輪の磯辺揚げを肴に発泡酒を呑む。冷えた身体が徐々に火照り出してきた。あっという間にカラになるが、何だかまだ物足りないのでもう一本飲もうと、冷蔵庫の扉へ手を伸ばした瞬間、やりかけの仕事を思い出してしまった。糊だ。ほろ酔いの頭で今日あった出来事がコイツのせいだと気付かされる。あたしの人生のある分岐点、あるいは岐路、はたまた重要な選択を迫られる時、コイツは必ず絡んでくるのだ。糊だけに。

 そう、中学3年の冬。その日は第一志望高校の面接試験だった。緊張で一睡もできなかったあたしは、朝、鏡を覗くと瞼が赤くパンパンに腫れ上がり、ウルトラマンのような目になっていた。これはマズいと焦り取り乱し、リビングの引き出しの中にあった糊をアイプチ代わりにして二重を作った。無理に二重にしたせいか、まるでヘビに睨まれたカエルのよう、吃驚した目になっていた。走って面接会場へ向う道すがら、砂埃が舞った。冬なのに走ったせいで額から一筋の汗が流れた。
 面接の先生方と向き合う形であたしは座った。一礼をして顔を上げると、全員何とも言えないいぶかしんだ表情であたしを見つめる。困ったあたしに気付いたのか、左から二番目に座っていた先生が、「転んじゃったのかな??」とあたしの顔を覗き込む。不意を突かれたあたしは「へっ?!」と答えてしまった。ご存知の通り面接は決まりきった会話を無事にすり抜けた人の勝ち。はなっからトチクリあげたあたしである。ましてやあたしは吃音持ちで焦れば焦る程悪循環が起こる。
 初めの問答は無かった事として、気を取り直し質疑応答は進んで行く。何かの質問に困り、ふと、瞼に触れると、「転んじゃったのかな??」の意味を指先で理解してしまった。糊で作った自己流アイプチは、走った汗で溶解し、舞った砂埃を吸着し、瞼に砂のアーチを描いていたのだ。そうしてあたしは第二志望の高校に入学した。

 カーテンの隙間から暖かな光が注す。猫があたしの指を舐めていた。爽やかな情景とは裏腹に、アイツのせいであたしは酔いつぶれていたのだ。
今日こそケリをつける。開運の為にも、今後の人生の為にも、何が何でもベタベタ取るのだ。
 問題はその方法である。弱アルカリ性洗剤を使い、溶解させて拭き取るか、或いは一昨日麻痺した親指に運命を託すか、はたまたシール剥がし専用の溶剤を購入するか。
あたしは自分の人生に絡む「糊」という便利で憎むべき存在を、全否定するかの如く、あえて第二案を決行したのだった。
 汚らしいシール糊の数々を目の前にし、頭にタオルを捲く。右手親指で丁寧に下から上へシールをこ削ぎ上げる。一枚目の半分が剥がれる頃には、親指の腹は真っ赤に腫れ上がり、痺れて使い物にならなくなった。
 しばらく悶々と悩んだ挙句、荷造り用綿ガムテープの威力を思い知るのである。
 ガムテープの粘着面を糊に押し付けては剥がし、押し付けては剥がし、少しずつではあるが見事に剥がれてゆく。ただ、小さくなった糊の欠片を剥がそうとガムテープを押し付けると、どうも冷蔵庫の塗料の外側まで剥がれてしまうのだった。
 冷蔵庫の塗装は何層にもなっているらしく、剥がれた部分はやや光沢がないグレーになってしまう。金属が見えているわけではないので、気にしない事にした。
押し付けては剥がし、押し付けては剥がしの単純作業は、何か人を恍惚とさせるものがある。あたしは小さな糊の欠片をまるで仇のように消し去って行く。
 自己陶酔の挙句、糊の欠片は殆ど消滅したが、気付けば扉の塗装は、光沢のないグレー部分、白い部分、赤茶色の部分、まるで三毛猫のような配色になっていた。
 良く目を凝らして見ると、色の違いは何層にも塗った塗料のせいで、そのことに気付いたあたしは、一体この冷蔵庫は、何層の塗料が使われているのか、突き止めないでいられなくなっていた。

 グレーにガムテープを押し付ける、人差し指の爪でうりうりと押し付ける。景気良く剥がすと、グレーは白に変わっていた。
 今度は白にガムテープを押し付ける、人差し指の爪でうりうりと押し付ける。親の仇と剥がすと、白は赤茶に変わっていた。
 三度赤茶にガムテープを押し付ける、人差し指の爪でうりうりと押し付ける。人間失格と剥がすと、赤茶は・・・に変わっていた。
 ・・・っ、言えないのである。正確には色として言葉で伝えられないのである。敢て言うなら『虚』である。
 あたしの想像だとここで鉄板が出てくる予定だった。しかし『虚』なのだ。絶対もって塗料ではないのだ。科学的に説明出来ないが、これは何が何でも塗っている物ではなく。無いものが在るのである。言い換えれば、在るものが無いのである。鉄板が無いのである。
 あたしは見てはいけないものを見た気がして、心が吸い取られそうになり、慌ててガムテープで塞いでしまった。千切る間もなく、20センチ程伸ばしたガムテープをロールごとぶら下げた。

 目眩にも似た混乱があたしを襲った。
 冷蔵庫から逃げるように駅前のスターバックスへ駆け込み、コーヒーを飲みながら気を落ち着かせようとした。ソファに深々と座り深呼吸をしてみた。気付けば頭にタオルを捲いたままだった。コーヒーが痺れたあたしの脳味噌を、徐々にではあるが解きほぐしていく。今起きている事態を俯瞰して見てみよう。
 えっと、、ありふれたアパートで、ありふれた冷蔵庫を、ありふれた住人が、ありふれたシール糊を剥がした故、ありふれた『虚』を発見した。んんっ?ありふれてるのかなぁ。もしこの事が本当なら、後ろに座ってるお客や若い店員さんに、「お宅の冷蔵庫に『虚』あります?」と聞いても平気かもしれない。いやいや、そんな事はない。  これは親や姉にも言える話じゃないし、他人に言おうもんなら、忽ち精神病患者扱いに決まってる。しかし、事実なんだ。

 そこで解決方法。
 第一案〜〜電気屋さんを呼び、おすぎとピーコ宜しくクレームを言う。しかし十年も経っている冷蔵庫なんで、修理保証期間中ではないか。
 第二案〜〜さっきまでの出来事は無かった事にして、冷蔵庫を粗大ゴミとして処分する。
 第三案〜〜やはりさっきまでの出来事は無かった事にするが、今まで通り冷蔵庫(『虚』も含む)と一緒に暮らす。
 第四案〜〜あたしが1人で『虚』を確かめる。

 混乱したあたしの頭で思いついたのは、こんなとこだった。あたしの性格上、というか人生今まで、クレームなど人に言った事が無いのである。当然第一案は却下だな。
粗大ゴミか、、。処分するにはいくらかかるのだろう?ましてや捨ててしまったら、新しいのを買わなくてはいけないではないか。金が無いから、うら若き乙女のあたしが、竹輪の磯辺揚げで一杯やっとるわけだ。
 もし第三案、一緒に暮らすってことは、ガムテープを見る度にあたしは背筋を凍らすわけだ。得体の知れないアイツ『虚』に!
 ということは、第四案あたしが1人で『虚』を確かめる、しかないようだ。あたしは今まで何だって独りでやってきたさ。16才で高校やめて、シンガー目指して東京に出てきたではないか。
 よし!覗いてみるか、例のものを。
 あたしはコーヒーを飲み干し、勢いよく腰を上げた。立ち眩みがした。そうだ、朝から固形物を口にしていない。1番安くてエネルギーが豊富と思われる、シュガードーナツを景気付けに2個買いだ。
 ドーナツを頬張りながら桜並木を歩く。裸の木々達は真っ逆さまに新しいあたしを迎えてくれるようだ。薄手のコートでも寒さを感じない。

 冷蔵庫の前へもう一度立ちはだかる。高鳴る鼓動を手でそっと撫で下ろす。大丈夫、あたしならできる。できる子だ、昔から要領の良い子だった。
 ロールごとぶら下がったガムテープに変化はない。おそるおそるガムテープに指を這わせてみる。何も起こらない。
 肝心の部分、あの部分にそっと指先で円を描いてみた。びくん。一瞬わたしの体の外側から、何かが迫ってくる様な気配がした。体には何も付いていない。誰もいない。今のは何だったんだ。ソファで丸くなった猫を一撫でし、心を落ち着かせる。そしてもう一度あの部分に手を伸ばす。もう大丈夫だ。今度は中心を押してみる、本当なら鉄板だから押せないはずが、なんと柔らかな感触である。
 ここまで来たらもう後ろには下がれない。これが何なのか、何者なのか、確かめなければ。
 あたしはそーっと慎重にガムテープを剥がした。
 ・・・出た。これだ。あたしを支配する『虚』だ。さっきはあまりの強烈さに我を失いかけたが、あたしの中に免疫が構築されたようだ。
 一円玉くらいの大きさのこれに、まず、右手人差し指を第一関節まで挿入してみた。、、ギャッ!吃驚して思わず声を上げてしまった。何なんだ、この感触は。冷たくも熱くもない。ただ、ぶにょぶにょと、気色の悪い何かが剥き出しになっているような、まるで水溶き片栗粉の感触だ。
 ますます混乱に陥る。しかし確かめなくては。そう、確かめるには穴が小さ過ぎる。あたしはその穴の回りにガムテープを押し付ける、人差し指の爪でうりうりと押し付ける。勢い良く剥がす、を繰り返した。ひたすら繰り返した。必死に、自らの身を捨てるほど、必死に。

 眠らなかった。あたしは眠くならなかった。いつ夜が明けたんだろう。何日経ったんだろう。ボロボロの両手は『虚』に潜む何かを目指し、止まらなかった。
 気付けば目の前にあった扉のあの穴は、冷凍室の扉一面の大きさにまでなっていた。
 塗装を剥がしているうち、何度か指や、時には手首まで『虚』の内側に浸してしまった。しかし、あたしの肌に異常はみられない。
 あたしは『虚』を冷静に見られるようになっていた。爪で弾くと滑らかな波紋が広がる。何とも言い様の無い色の冷凍庫の扉は、案外インテリアとしては、シックな気がしてきた。
 常識的にいえば、冷凍庫に手首まで入れているのだから、ー15℃はあるはずなのに、室温と変わりない。突っ込んだあたしの手首はどうなっているんだろう。
 試しに肘まで腕を入れ、冷凍庫の扉を開けてみた。なっなっなんと!あたしの右手が無い。扉の内側にあるはずの、あたしの右腕の先が見えないのである。慌てて腕を引き戻す。ある。ちゃんとあたしの腕はある。折れてもないし切れてもいない。どういうことか?『虚』の先は一体どうなっているんだ。
 ふと、何か物を入れてみようと思った。何がいいか。大きな物がいい。そうだ、あたしの唯一のお勉強道具、地球儀を入れてみよう。たまたま目についたのだ。
 冷凍庫の扉を15センチほど開けたまま、地球儀を両手で持ち上げて壁へ入れてみる。な、無い。やはり無い。あたしは地球儀を抱えている。それなのに扉の内側からは地球儀が見えない。腕をこちらへ引けば地球儀は見える。そして、手から離してみた。無い。冷凍庫にあるはずの地球儀が無い。どこへ行ってしまったんだ、あたしの地球儀。
 尋常ではない。してはいけない事をしているのか。しかしあたしは体験している。あり得ない事を目の当たりにしている。
 そんなことより、この地球儀はおじいちゃんから貰った大切な宝物。よりにもよってなんで地球儀入れちゃったんだろう。馬鹿だ馬鹿だ!
 慌ててあたしは踏み台に載り、右腕を肩まで突っ込んで、めくら滅法辺りをまさぐった。下の方で指先に何か触れた、地球儀かな?真上から丸い部分を掴むつもりで指を広げた。ゆっくり指をすぼめる。期待とは裏腹に紙の様な物を5本の指で挟んだ。躊躇はせずに引き上げてみる、そんなに重くはなく、苦もなくそれは取り出せた。
 驚く事なかれ、あたしの地球儀だった。
 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
 薄い何かを摘むように引き上げたのに、出てきた物は地球儀。なんでぇ〜〜〜〜〜〜〜。昨夜から酷使している、あたしの指の感覚が麻痺しているのだろうか。
 いやいやここは冷静に、と自分に言聞かせつつ。今度は右手で、勿論立体的に地球儀を掴んで、『虚』に挿入。
 すると地球儀が扉に消えると同時に、あたしは紙切れを摘んでいる感覚に変わった。
 ありえない、でも現実だ。要するに『虚』の先は平面なんだ。2次元ワールドなのである。不思議の国アリスのトランプ兵隊である。
 我に帰ったあたしは、『虚』の向こう側の床の存在を悟った。地球儀の高さ約30センチを計算に入れると、向こう側の床は、家の床から約40センチ上に存在する。
 行ってみるか?いや、そんな大胆な。
 葛藤した挙句、まずはこの目で見てみることにした。その為にはまず足元を安定させなくては。あたしは踏み台をかたずけ、リビングテーブルを移動した。
 そして、向こう側で息が出来ないと困るので、洗濯機に付いているゴムホース。何かあった時用に、バイクのヘルメットとスノーボードのゴーグルを用意した。
 そして全てを装着したあたしは、奇怪な格好で『虚』の向こう側探検に挑んだ。

 瞳を閉じ、ホースをくわえる。無論ホースの反対側はこちらの世界に置いておく。『虚』に頭を入れてみる。徐々にヘルメットが沈んで行く、境を越える時少しだけ気圧が変化したのか、軽い耳鳴りがした。ホースにあたしの息使いが響く。両手で冷蔵庫の角を掴み、あたしの肩から上は『虚』の向こう側に沈んだ。
 恐る恐る瞼を開ける。驚きのあまり「んぼっ!」と声が漏れた。
 『虚』の向こう側、そこはあたしのアパートだった。それも平面の!レンジの回りの汚さや、パンやら煙草やらが雑然と置いてあるサイドボードまで、寸分違わぬまさしくあたしん家だった。
 そして、床が40センチ高かったのも、ご丁寧にあたしがさっき運んだリビングテーブルがそこにあるからなのだ。
 あまりの驚きにホースが口から出てしまったが、息ができているので地球なのだろう。あたしはヘルメットとゴーグルを外し。人の気配は感じられないので、毒を喰らわば皿までとばかり、2次元のあたしん家に上がり込むことにした。
 そこは何から何まであたしん家。あたしが可愛がってる猫までいた。ところが平面なので横からは撫でられるけど、上からだと摘む感じだ。まるでエジプトの壁画だ。そう思って自分の手を見てまたビックリ。あたしの手も平面なのだ。厚みがないのだ。
 自分の身体が心配になり、鏡の前に立った。正面からだといつものあたしだ。でも横を向くと、、なんとあたしの身体は鏡に映っていない、やはり厚みがないのだ。
 斜めを向くと、あるポイントを境に、真正面か、無しか。究極のALL OR NOTHING ワールドである。あたしは気付いた。この世界、鼻の高さは関係ないのだ。また、胸の大きさも関係ないのだ。きっと美容整形も全く違う方法なのだろう。あたしのコンプレックスは関係ないのである。

 暫く考えた。本棚の上の2次元のあたしの写真は、あたしと同じ顔をしている。というか、あたしん家にも同じ写真が同じところに置いてある。
 ここの住人はあたしなのだ。更に考えた。あたしはあたしに会うべきか。
 もし、会ったなら、どんな挨拶をすればいいのだろう。吃音持ちのあたしははなっから「はっはっはじめまして」、そして相手も「どっどっどっどうも」。話がはずむわけないのである。きっと相手も同じ事を悩んでるはず。猫のなつき方からして、同一人物なのだ。
 彼女もあたし同様、温もりを求めているはず。自分を愛せないまま、日々を過ごしているのだ。この一件が起きてからあたしは、『虚』という存在に親近感を抱き始めていた。それは、彼女の、そして自分の心に宿る『虚』が具現化されたものなのかもしれない。
 あたしは目を閉じ、全神経を集中させ、そっと彼女と鼓動を重ねる。あるだけのエネルギーで、間違いのない自分を守るように。

 決めた。会う必要はない。会った所でそれは自分なのだ。

 あたしはなんだか清々しい気分で、平面世界を後にした。部屋の匂いが温かい。ここがあたしの居場所なんだ。
 そして数日後、例の『虚』を隠す為に、丁度良い大きさのホワイトボードを買ってきた。『虚』はインテリアとしては良いのだが、他人に知られると面倒なのだ。
 金具を上手い具合に折り曲げて、冷凍室の扉に掛けようとした。あたしは何気なしに『虚』の感触を味わおうと、指を挿入した。するとあちら側にも何かボードらしき物で、覆いが施されているようだった。
 そうだよね、だって、あたしなんだもの。
 でもこんなものぶら下げたら、ますます風水に悪いかもね。